Abstract : |
開胸手術後, 肺の再膨脹は良好であるにもかかわらず, 低酸素血症が比較的長期間認められることが多く, とくに肺切除後では, 術後第2~第4病日にもつとも動脈血酸素分圧の低下がみられ, その後次第に回復して第7病日にはほぼ正常にもどるといわれている. その原因として肺切除後の肺血流分布の変動が考えられ, この点に関しては, 肺スキヤンニングによる研究により, 術後早期には術側において切除肺実質の大きさ以上に肺血流分布の減少がおこるためと報告されている. しかし対側における肺血流分布, とくに対側の局所肺血流分布の変動に関する報告は少ない. またこの時期の肺血管床の形態学的検索は殆ど行われていない. そこで著者は131I-MAAを用いて, 臨床例では肺切除術後早期および遠隔期の局所肺血流分布の変動を検索したが, 動物実験では肺切除以外に血流分布に影響を与えると考えられる開胸, 低酸素負荷, 横隔膜運動の低下などの諸条件を作成し, その前後の局所肺血流分布を観察し, 同時にWestの冷凍固定法を用いて生体に近い状態の肺動脈の形態学的研究を行つた. その結果, 肺切除後早期には術側の著明な肺血流分布の減少がみられ, 同時に残存肺では100μ前後の肺小動脈の著明な収縮が観察されたので, 器質的肺血管床の減少に, 機能的肺血管床の減少が加わつているものと推定される. 非開胸側では血流は著明に増加したが, これは上肺野において顕著であり, 100μ前後の肺小動脈の拡張がみられた. 以上の所見は上肺野における予備血管床の存在を示唆した. 術後遠隔期においては, 裏側の血流分布はかなり回復しており, この時期には肺小動脈の収縮も軽度であるから, 残存肺血管床の機能的減少が是正されてきていると考えられる. したがつて, 肺切除後の管理にあたつては, 以上のような肺血管の反応を考慮して, 残存肺の機能回復に努力すべきである. |