Abstract : |
近年, 心臓外科の著しい進歩にともない, 複雑心奇形の1つである心内膜床欠損症に対しても根治手術が安全に行われるようになり, その成績も年々向上している. 著者は, 教室において手術が行われた心内膜床欠損症(不完全型)20例について, 手術前後に右心カテーテル検査および選択的左室造影(逆行性)を行つて手術による血行動態の推移を追求し, さらに, 胸部レ線像, 心電図, 心雑音などの臨床データをも追求することにより, 手術成績, 特に本症の根治手術上の現在の問題点である僧帽弁前尖裂隙の処置法について検討を加えた. 術中Eisenmenger化していることが判明した1例をのぞく19例に根治手術が行われ, 16例が生存し, 3例が死亡した(死亡率16%). 死因は, 人工弁置換例および裂隙縫合例の各1例が, 術後の僧帽弁機能不全, 裂隙放置例の1例が完全房室ブロックの発生によるものであつた. 根治手術後に生存した16例(裂隙放置例13例, 裂隙縫合例3例)のうち, 裂隙放置例では, 術後の選択的左室造影で, MIの増悪が認められたものはなく, 40%に術前にみられたMIが術後消失した. また, 術後の肺動脈楔入平均圧は全例11mmHg以下の正常値を示した. 裂隙縫合例3例においては, 術後左室造影を行いえた2例中1例で, 明らかなMIの増悪がみられ, 他の1例では, MIは術前とくらべて不変であつたが, この2例とも術後のMI逆流度はIII度であり, 残りの1例では, 術後の肺動脈楔入平均圧が13mmHgを示し, 3例とも術後の僧帽弁機能に関して問題を残した. 以上の結果から, 著者は, 心内膜床欠損症(不完全型)の僧帽弁前尖裂隙の処置法として, 術前にSellersのI~II度の逆流が認められるような症例に対しては, 僧帽弁前尖裂隙は放置する方がよいと結論する. |