Abstract : |
稀釈体外循環により開心術を施行した後天性弁膜疾患49例, 先天性心疾患8例, ならびに経心室僧帽弁交連切開34例を対象とし, 肺動脈(PA), 左房(LA)カテーテル留置による術後急性期における肺循環動態, 体外循環に伴う血漿諸因子の変動と開心術後呼吸不全の関連性を追求した. 経心室性交連切開群では肺血管の器質性変化を伴わない限り, PA圧, LA圧, PAmean-LAmean圧較差, PAdiast-LAmean圧較差の下降は著しい. 直視下交通切開群では, LA圧下降は非直視下例に比して著明ではなく, PA圧下降もみない場合も多い. とくに呼吸不全を認め, 補助呼吸を必要とした症例では, LA圧下降にも拘わらず, PA圧上昇, PAmean-LAmean圧較差, PAdiast-LAmean圧較差の増大を認めた. 開心術後呼吸不全発生因子としては, 大量昌質液の回路内充填によつて, 潅流中, 血漿蛋白濃度, Ht値は低下し, 低膠質滲透圧となり, 潅流終了後, 装置内残留血を患者に戻すこと, さらに, 潅流中の血管壁透過性亢進因子bradykininの産生増大と相俟つて, 昌質液の血管外移動を強め, 肺においては間質性肺水腫へと進展し, 呼吸不全をもたらすものと考えられた. 左心不全例ではLA圧上昇に伴つてPA圧上昇をみ, PAdiast-LAmean圧較差は負となる場合が多いが, 間質性肺水腫においてはLA圧上昇は殆んどないか, あるいは, 量負荷を反映して軽度上昇を示すにすぎない. 肺循環動態の異常を反映して, 間質性肺水腫症例ではPA圧上昇に伴い低PO2血症, A-aDO2増大をもたらすので, 開心術後呼吸不全の要因と考えられる本症治療のためには, 浮腫液排除のためPA圧, LA圧, 体血圧監視下にhypovolemiaになるのを防ぎつつ, furosemideの段階的投与が極めて有効であることが示唆された. |