Abstract : |
電解質の重要性は最近特に高まつており, 特に開心術中, 術後に発生する低K血症は低心拍出症候群, 不整脈などとの関連性が云々されている. これらの原因として, 利尿, 薬剤, 呼吸, 稀釈, 体内貯留等の種々因子がいわれてきたが, 著者は開心術中におけるこれらの現象を解明すべく, 臨床的ならびに実験的研究を行つた. 臨床例では主として先天性心疾患症例を用い, 体外循環中の血清, 血球, 横紋筋の電解質(Na, K, Ca, Mg)を測定し, 動物実験においては雑種成犬を用い, 低温潅流, 常温潅流, 表面冷却低体温実験を, また低温潅流下に大動脈間歇遮断および直流電気細動実験を行い, これら各実験群で心臓, 横紋筋, 肝臓, 血清, 血球の電解質(Na, K, Ca, Mg)を測定し, その温度および時間的因子について検討を加えた結果, つぎの知見を得た. 臨床例では血清の低下を見たが赤血球, 横紋筋では軽度減少傾向を見たが著明でなかつた. 動物実験における体外循環時心筋のNa, Mgは著明な経時的変化は観察されなかつたが, 間歇的大動脈遮断電気細動で心筋Kの低下を認め, 同時にKの動きと逆に心筋Caの増加を認めた. 血清Kの低下は低温潅流, 表面冷却低体温において著明であり温度低下と関係するようである. 表面冷却低体温実験において復温とともにその回復を見た. 血球Kはとくに変化ない. 横紋筋では潅流により, 経時的に低下し, 表面冷却低体温において温度低下とともにそのKレベルの低下を見るが, 復温によりKレベルの回復傾向を認めた. 肝組織においては特に低温潅流2時間で有意ある増加を認め, また表面冷却低体温で直腸温25℃に冷却すると, 肝組織におけるKレベルの増加傾向を認め, 復温すると冷却前への回復傾向を認めた. これらの事実より, 体外循環および低体温時における血清の低下現象について種々の原因がいわれていたが, それらの1つとして温度因子を考えたい. また血清の低下は体外排出もさることながら, 肝組織に移行すると考えたい. なぜ肝組織で増加するかは今後の研究に待ちたいが, 横紋筋の結果などから考えて肝臓における特異な反応を考えたい. |