Abstract : |
昭和32~47年の16年間に当施設で取扱つた原発性慢性膿胸1)134例(穿孔例78例, 非穿孔例56例)を対象とし, 術前処置としてのdrain挿入, 洗滌, 薬液注入の操作が, 膿胸腔の浄化へ与える影響を, 膿胸腔内の菌消長, 膿胸壁の病理組織学的所見, 根治手術の成績などから検討した. 膿胸の原因は穿孔例(非穿孔例)の場合, 人工気胸46%(45%), 胸膜炎32%(46%), 自然気胸3%(0), 不明19%(9%)となり, 根治手術はそれぞれ胸膜肺全切除74%(23%), 胸膜肺葉・区域切除12%(18%), 剥皮4%(55%), 非根治手術10%(3%)であつた. 膿胸腔中の菌陽性率は穿孔例(非穿孔例)で76%(48%)を示し, それは結核菌のみ39%(29%), 結核菌+一般菌16%(2%), 一般菌のみ21%(17%)から成り立ち, 両者間にかなりの差がみられた. この事実を反映してか, drain挿入率は穿孔例の50%に対して非穿孔例では14%にとどまつた. のみならず, この率は感染菌によつても相違し, 穿孔例(非穿孔例)では結核菌の場合半数(ごくわずか), 一般菌の場合大多数(半数以下)であつた. 感性抗結核剤の全身投与では, 膿胸腔内の結核菌はほとんど(3%)陰性化しないが, drain挿入によつて70%の結核菌陰性化(所要期間平均30日), 菌量の著明減少, 体温の正常化喀痰量の減少などの効果が認められた. 一般菌への効果は感染菌の種類によつて異なり, グラム陽性球菌, 緑膿菌以外のグラム陰性桿菌の陰性化は高率であるが, 緑膿菌, アスペルギルスの陰性化は望めなかつた. 反面drain挿入による一般菌の新感染が20%にみられた. 病理組織像は穿孔の有無, 感染菌の有無・その種類, drasn挿入の有無によつて異なり, 穿孔例よりも非穿孔例で, drain非挿入例よりも挿入例で単純像を示し, drain挿入の効果を裏書きしていた. drain挿入による菌陰性化例の根治手術成績は良好であつたが, 結核菌多量持続例, 一般菌持続例の成績は不良であつた. 以上の結果よりdrain挿入は菌陽性例ことに穿孔例には有用な処置であるといえる. |