Abstract : |
胸腺腫の診断ならびに治療上には, 末解決な多くの問題を残している. 著者らは教室における胸腺腫瘍症例36例を中心にこれらの問題について検討した. 他疾患との鑑別診断には, 胸部X線像, 大動脈造影, 内胸動脈造影, 胸腺静脈造影などの有用な方法があるが, 最近, 私どもは胸腺腫の診断に75Se-セレノメチオニンによるスキャンを用いている. これは, 胸部では胸腺腫に選択的に集積する特徴があり, 胸腺腫の大きさ, 構造をかなり正確に描出できる. さらに胸腺腫に対しては縦隔鏡検査もきわめて有意義であることを強調したい. すなわち, 腫瘍の生検を行うことにより確定診断が可能であること, 腫瘍の良悪性病理診断が可能であること, 腫瘍の大きさ, 浸潤度を知ることにより, 手術適応を決定できること, 大きなもの, または浸潤の強い悪性胸腺腫では, 術前に組織型に応じて, 放射線治療, 化学療法を併用し, 腫瘍の縮少を待って切除可能となる症例があり, したがって切除率を向上させうること, 胸部X線像では見出しえない, 小型の胸腺腫を診断できること, など多くの利点を有しているからである. 胸腺腫の手術に際しては, 非腫瘍部を含めての胸腺全剔を施行すべきであり, これは重症筋無力症をはじめとする合併症の発症に非腫瘍部が重要な関連を有すること, すなわち良性胸腺腫剔除後, 重症筋無力症を発症し再手術により残存胸腺への胸腺腫の再発と, 対側非腫瘍胸腺には肥大と, 多数の胚中心をみとめ, 胸腺全剔により軽快した症例を経験したからである. 悪性胸腺腫は, 局所浸潤傾向の強い腫瘍であるから, 積極的に他臓器合併切除を行っている. また, 血行転移例の経験から, 症例によっては, 化学療法を併用すべきであり, さらに他臓器癌に比し, 比較的治療予後の良好な腫瘍であるとの観点からして, 術前確定診断, 術前術後の併用療法, および手術々式の工夫により, 治療成績をより一層向上させうるものと考えている. |