Abstract : |
僧帽弁膜症直視下手術に対する新しいカニュレーション法としてわれわれが考案せる“Apicoaortic-PA”カニュレーション法の実験的および臨床的研究を行った. 本法は左開胸到達法で動脈血送血法として経左室心尖部上行大動脈カニュレーションを, また静脈血脱血法として経肺動脈右心室カニュレーションを行う方法である. 本法は操作が容易で迅速に行い得るがその利点として(1)送血方法がより生理的である, (2)僧帽弁修復の状態をよく観察しえる, (3)末梢動脈カニュレーションに起因する合併症がみられない, (4)動脈修復の必要がないなどが挙げられる. 種々の実験結果から動脈カニュレーの至適サイズは, 臨床上成人症例においては内径5.6mm以上, 外周33mm以下で, その先端に側孔を有するカニュレーを使用することによって, 左室流室路, および大動脈弁の閉塞障害を惹起することなく, 平均80cc/kg/minの潅流量, および充分な冠血流を得ることができる. また経左室上行大動脈カニュレーション法を上行大動脈および, 大腿動脈カニュレーション法との体外循環中の血行動態について比較検討し, また雑種成犬を用い, “Apicoaortic-PA”カニュレーションによる体外循環前, 中, 後の血行動態について検討して本法の安全性および実用性を確認し得た. われわれは本法を1971年に始めて左開胸到達法による直視下僧帽弁交連切開術に応用して以来, 現在まで55例の僧帽弁膜症の直視下手術, すなわち直視下交連切開術43例, 直視下弁輪縫縮術8例および弁置換術4例に使用し満足すべき結果を得た. 本法は, 単独僧帽弁膜症に対して左開胸到達法による初回直視下手術の体外循環法として安全でかつ実用的であると考える. |