Abstract : |
開心術後における不整脈と血中ジギトキシン値(以下血清ジギ値と略す)との相関を検討するため, 体外循環下開心術20例および単純低体温下開心術8例について, 術中および術後における血清ジギ値を測定した. ジギトキシンの維持量服用を術前48時間に中止した場合, 体外循環においては, 循環中血清ジギ値は最低値を示し, 低体温においては, 術後加温時に最低値を示したが, 術後はいずれの場合も術後24時間にreboundを示し, 術前値を凌駕する症例も認められ, 術後48時間では再び低下した. ジギトキシン中毒に由来する不整脈は体外循環20例中5例に認められたが, 低体温例では認められなかった. 中毒例における血清ジギ値の変動パターンは, 非中毒例のそれと同様であったが, 全体に高値を示す傾向にあり, 術後24時間値(26±5.4ng/ml)においては, 非中毒例20例のそれと比較し有意(p<0.05)に高値であったが, 従来の非中毒値(37±9ng/ml,)に比し低値であった. そのほか, 中毒例と非中毒例につき, 術後ジギトキシン中毒発生に関与すると考えられる, 体外循環時間, 動脈血PO2, 動脈血pH, BUNおよび血清Kなどを比較検討したが, 両群間に有意の差異は認められなかった. したがって, 以上の所見より, 術後24時間における心筋のジギトキシンに対する感受性の増加が, 術後ジギトキシン中毒発生に重要な役割を演じているものと推測される. また, 術後ジギタリス投与の問題に関し, 術後24時間以後において, ジギトキシンの術前維持量を一回投与した6例についてみると, 投与後6時間において増加傾向を示し, 投与後24時間(術後48時間)においてもなお低下傾向は認められなかった. したがって, 血清ジギ値の面よりみて, 維持量1回投与においても充分有効であり, 術後24時間以内のジギタリス投与に際しては, 体外循環および単純低体温いずれの場合にも, 過量投与にならぬよう慎重な配慮が必要であろう. |