Abstract : |
常温下稀釈体外循環法は, 現在広く用いられている. しかし解明されていない問題も多数あり, 著者は現在行われている潅流方法が適切であるかどうかを知るために, 検討を加えた. 対象は岡山大学第2外科教室にて, 常温下稀釈体外循環を用いて開心術を行った臨床例, および臨床例における問題点を追求する目的で行った実験例である. 臨床例では血行動態・動脈血酸基平衡・尿排出量を, 実験例では血行動態・動脈血酸塩基平衡を経時的に測定した. 臨床的検討:完全体外循環中の平均動脈圧および末梢血管抵抗比は, 体外循環開始後徐々に上昇し, 60~80分にて最高値に達し, 90分頃より低下した. 平均動脈圧の最高値は30~130mmHgの間に分布し, 50mmHg以下が全症例の25%に見られた. 末梢血管抵抗比と潅流量比との間には有意な相関を認め, 体表面積の小さい症例は潅流量比は高いが末梢血管抵抗比は低く, また動脈圧も低い. 体表面積の大きい症例はこれと正反対となった. 実験的検討:潅流量を25, 50, 75, 100, 125ml/kg/minの5群に分け, 2時間の完全体外循環を行った. 平均動脈圧は体外循環の経過中100ml/kg/minの群が最も高値をとり, ついで125ml/kg/minの群と75ml/kg/minの群が同程度の値をとった. 動脈血pHは体外循環中では125ml/kg/minの群が最も低値をとった. したがって潅流量を増加させても動脈圧は上昇せず, かえって酸塩基平衡の面からは不適切となることを認めた. 以上の結果より, 常温下稀釈体外循環法は著者の検討した範囲内ではほぼ満足なものであった. 体表面積の小さい乳幼児では体外循環中低血圧をきたすことがあるが, 血液酸塩基平衡・尿排出量・脳波・心電図などの指標に留意して行えば, この潅流方法は安全かつ有用なものであると考える. |