Abstract : |
出血性ショックに続発するいわゆるショック肺は, 循環血液量の減少に対する治療として行われる過剰輸液あるいは過剰輸血が原因の1つと考えられている. 輸液療法に用いられる各種薬剤がショック肺に与える影響を検討する目的で研究を行った. 実験は雑種成犬を用い, 平均体血圧40mmHgを120分間維持し, 出血性ショック状態を作成し, 輸液前後における血行動態とくに肺微小循環を主とし, 血液ガス分析, 肺水分含有量比および肺病理組織所見を基に検討した. 輸液薬剤は, 1. 晶質液群-乳酸加リンゲル液を出血量の2倍量. 2. 血漿群-乳酸加リンゲル液とコロイド溶液(自家血漿とデキストラン70より成る)を等量づつ. 3. 血液群-乳酸加リンゲル液を等量と脱血液を全量再輸血する3群に分類した. 以上の実験結果より次の結論を得た. 1)晶質液群では輸液直後, 体血圧は対照値の約80%, 心拍出量は約2倍にまで上昇したが, 20分後より低下し, 肺細静脈圧-左心房圧較差も時間の経過とともに増大し, 再びショック状態に移行した. 血漿群では輸液後, 体血圧と心拍出量は3群中, 最も高値を示したが時間の経過とともに低下し, 60分後で血液群との間に有意の差が認められた(p>0.001). 血液群では輸液120分までの観察では血行動態的に安定した値を示したが, 肺動脈楔入部圧-肺細静脈圧較差は20分後より増大傾向を示し, 肺胞毛細血管床間に血流障害が起こったことを示唆した. 2)血液ガス分析結果では, 晶質液群では動静脈血酸素含有量較差が増大し, 血漿群では動脈血酸素含有量の減少が観察された. 3)肺水分含有量比では, 各群ともに対照時よりも, 輸液120分後で増加の傾向を示したが有意の差は認められなかった. 4)肺の病理組織所見では, 出血性ショック120分後, 晶質液群あるいは血漿群でも認められたが. うっ血性無気肺, 血管壁の浮腫および血栓形成などは血液群で強く観察された. 以上のことから, 出血性ショックの治療にあたっては, 乳酸加リンゲル液を最初に輸液し, 次いで血液を補った血液群が最も良好な結果を示した. |