Abstract : |
開心術後の急性腎不全の発生率は体外循環が延長する程高くなっている. 長時間体外循環では体外循環中いかに腎機能を保存するかによって術後の腎機能は重大な影響を受る. 本研究は体外循環における腎機能の変化について実験的, および臨床的に検討し, 急性腎不全の予防について考察した. 実験には雑種成犬を用いて腎臓の動脈血潅流を行い, 腎臓のみを体外循環の状態にした. 6時間の潅流後, 腎動脈からインデアンインキを注入して腎内血流分布の変化を観察した. 腎血管抵抗は潅流開始後1時間から2時間の間に最も著しく増大した. 塩酸クロールプロマジンの投与は腎血管抵抗の増大を軽減した. 腎血管抵抗の増大によって腎血流量は減少したが, 尿量はむしろ増加傾向を示した. 腎動脈圧が60mmHg以下では利尿がなく, 60mmHg以上では腎動脈圧に比例して尿量が増加した. 軽度低体温では腎血流量が減少するのみで, 尿量は変化しなかった. 高度低体温では腎血流量はさらに減少したが, 尿量は著明に増加した. 潅流後の腎内血流分布は皮質外層の血流減少が著しく, 腎血管抵抗の増大は主に皮質外層の血管収縮によるものと思われる. 皮質の血流減少とは反対に髄質の血流は増加した. とくに髄質外層の血流増加が著しかった. 腎血流量が極度に減少し, 無尿になった腎臓では皮質外層は全く虚血状態であった. この皮質外層の虚血が起こると急性腎不全に陥いる. 臨床的には実験結果とほぼ同じ結果を得たが, 動脈圧が50mmHg程度でも利尿があり, また軽度低体温においても体温の下降とともに明らかに尿量が増加した. 体外循環における腎臓は腎血流量, 糸球体濾過率が減少し, 再吸収が低下した状態であるので, 腎機能を保存するためには多尿状態を維持する必要がある. |