Abstract : |
僧帽弁疾患, とりわけ狭窄症にみられる血栓による塞栓症に対し, 従来から抗凝血薬療法などが試みられてきた. それは塞栓症が本症の患者の予後におよぼす影響が決して無視しうるものではないことによるためである. それにもかかわらずその臨床的評価に関しては, 必ずしも諸家の意見が一致しているとはいい難い. そこでわれわれは, 本療法に関係する薬剤やその投与法から, 臨床的成績にいたるまでを文献的に概観し, あわせてわれわれ自身の経験をも若干加えつつ検討を行った結果, 2, 3の臨床的知見を認めるにいたった. その概要は次の通りである. (1)長期投与にはCoumarin-Indandione系薬剤が抗凝血薬として多く用いられており, 加えてDipyridamoleやAcetylsalicylic acidなどの血小板機能に関与する薬剤が併用される傾向もみられること, (2)狭窄症が存在しても本療法によって左房内血栓の発見率あるいは塞栓症の発生率を低下せしめうること, (3)交連切開術術後の症例に対するこれらの薬物療法の効果については諸家の間に見解の一致をみていないこと, (4)人工弁置換術後にみられる塞栓症は, 弁自体の改良によってかなり発生率が低下したが, なおこれらの薬物療法を必要なしとする段階には到達していないこと. 抗凝血薬療法は, 僧帽弁疾患の治療という点からみればあくまで“補助療法”にしかすぎないが, 塞栓症が極めて不快な合併症であり, それがゆえに一層きめ細かい患者管理が要請されることにかんがみ, 現時点においてはなおすてがたい臨床的価値が認められる場合もあると考える. |