Abstract : |
心移植術の臨床応用を阻む最大原因は, 今も“donor心入手の困難性”である. この問題解決に, donor sourceを死体心に求めることが考え得るが, 死体心には多くの制約がある. そこで, donor sourceとしての死体心の可能性を追求するため, 心拍動停止後, 機能低下した心が心保存操作中に再び心機能の回復が起こりうるか否かを検討すると同時に, 正常心機能が回復可能な, 常温死体内阻血の時間的限界を調べた. 実験は雑犬14頭を用い, 脱血死させた後, 常温死体内放置30分群・4頭, 40分群・6頭, 45分群4頭の3群を作成した. このそれぞれを死体内放置時間後に, 心肺標本として摘出し, “心機能判定回路を備えた心肺標本・心保存回路”に接続し, 心蘇生に続く拍動下・心保存を行った. 保存中は判定回路を用いて, 経時的に心機能をチェックし, 正常心機能への復帰の有無を, 保存開始後3時間目まで追跡した. 結果は, 30分群の全4頭と40分群6頭中5頭が30分~60分間の拍動下・保存により, 正常心機能まで回復したが, 45分群の4頭ではただ一頭しか回復しなかった. 以上より, 死亡後すでに機能低下が始まっている死体心も, 蘇生後, 心肺標本による拍動下・心保存操作により, 心機能の回復が期待できること. さらに, 常温下・死体内阻血状態に置かれた心の心機能が正常域にまで回復可能な阻血の時間的限界は40~45分の間に存在するとした. さらに, 当, 実験結果と文献的考察から, 全く何の補助手段もとられていない死体心をdonor心として臨床応用し得る時間的絶対安全圏は40分以内と結論した. |