Abstract : |
われわれの教室では昭和40年9月以降主にStarr-Edwards ball弁を移植しており, 10年余の経過のうち, 早期のsilastic ball弁による非被覆弁が後期のmetal ball弁に露出金属部分を合成線維布で被覆した被覆弁へと変更され, それぞれの生体における機能として, 僧帽弁置換例では血栓塞栓形成, 遠隔期肺動脈楔入圧, 術後経時的溶血について, 大動脈弁および2弁置換例では術後溶血の推移を中心に観察, 検討し, 現時点でのこれら弁に対する教室の考えと対策を述べる. 非被覆弁から被覆弁へと変更したことで, 僧帽弁置換例で脳塞栓発生頻度は19.2%から6.8%へ, 一過性脳虚血発作では21.3%から3.7%へと著しく減少した. 術後経時的に測定した血清LDH値を血管内溶血の指標とすると, 非被覆弁では7年間の経過でも平均値は500カバロ・ロブレスキー単位の範囲にとどまり, 被覆弁では術後4年間の推移は, 500から1,000単位の間に認めた. 遠隔期の肺動脈楔入圧は弁の種類やサイズには左右されず, 僧帽弁の病変が狭窄であることが閉鎖不全例より高値を示す結果となった. 大動脈弁非被覆弁置換例の術後7年間の血清LDH値の推移は, 平均値としてほぼ500単位程度であったが, 被覆弁で1年から3年にかけ平均値は1,500単位となった. 再弁置換2例と心不全により死亡した1例にcloth wearを認めた. 大動脈弁, 僧帽弁の2弁置換例では, 個々の症例で一様に1ないし2年の経過で平均1,200単位の高値を示した. 以上から僧帽弁疾患では抗凝固療法の安定性もあって非被覆弁を使用する方針にあり, 狭窄優位例では中心流弁としている. 大動脈弁疾患では昭和49年7月以降非被覆弁に変更し, 2弁置換例では以上の点を考慮して挿入弁を選択している. |