Abstract : |
人工弁置換術39例に術後早期より抗凝固療法と併用して, pyrimidopyrimidine誘導体の1つであるDipyridamole 400mg/1日の経口投与を行い, 抗凝固療法のみを行った他の人工弁置換39例と血液凝固能, 術後の血栓塞栓症の発生状況を比較検討し次のような結果をえた. 血液凝固能検査ではDipyridamole投与群において血小板粘着能の著明な低下を示し, 検査期間全経過を通じて, 対照群にくらべ低値を示し, 推計学的にも高度の有意差を認めた. 血小板粘着能の低下にともなって, Dipyridamole投与群において血小板数の増加, 血漿fibrinogenの減少を認め, 推計学的にもそれぞれ有意差を認めた. そのほかに行ったPT, K-PTT, TEG検査各値ではDipyridamole投与によると考えられる著明な変化は認められなかった. 術後の血栓塞栓症発生率をみると, 抗凝固療法単独群がのべ1,186カ月の観察期間に39例中8例(20.5%)に術後血栓塞栓症を合併し, このうち移植弁部の血栓4例中全例, および脳塞栓4例中2例, 計6例が死の転帰をとったのに対し, Dipyridamole投与群では, のべ1,062カ月間に発生した塞栓症は39例中2例(5.1%)で, 術後血栓塞栓症による死亡例は1例もなかった. Dipyridamole投与群39例中6例にDipyridamoleの投与によると考えられる頭痛などを訴えたものが6例あったが, 程度は比較的軽く, 持続期間も短かいものが多く, ほかに重篤な出血傾向や肝腎機能障害などの副作用を認めた症例はなかった. このように, 人工弁置換術後にDipyridamoleを従来のfibrin産生を抑制する抗凝固療法と併用することにより, 凝血学的に血小板粘着能抑制作用を確認し, 臨床的にも血栓症予防に有効であるという結論を得た. |