Abstract : |
乳児期の大動脈縮窄複合(Coarc複合)の特性を, 病理形態的に明らかにするため, 自然死したCoarc複合症例19例と対象として同じく自然死した非Coarc症例13例(VSD・PH7例, VSD・PDA6例)および正常心例22例について, Levの方法により剖検心を肉眼的に計測するとともに, Cbalkleyおよび諏訪の方法により心筋の組織学的計測を行い, 次の結果を得た. 本症の右心室は, 容量の増大および心室壁の有意の肥厚を示し, 組織計測でも心筋線維横断面直径の有意な増加を示し, 右心室に強い圧負荷の存在することが認められた. 左心系においては, a)大動脈弁および上行大動脈の低形成が認められた. b)左心室容量の増大が計測された. 一方心室壁の増加は正常の範囲内にとどまった. 組織計測では, 心筋線維の総長の著明な伸展が認められたが, 心筋線維横断面積直径は, 正常の範囲内にとどまった. c)本症例中には, 心筋線維横断面直径が正常心群に比べ小さいものが存在した. 心筋内線維症は, 本症では非Coarc群に比べ有意の増加が認められた. しかし, 左右心室内の差は認められなかった. 冠状動脈系は, 本症において半径100μ以下の細小動脈で有意の中膜肥厚が認められた. しかし, 心筋はこれに対応した心筋線維直径の増大を示さず, 冠状動脈系と心筋系とは同じ負荷に対して別個の対応をしていることが明らかにされた. 以上の肉眼的ならびに組織学的計測の結果, 右心室の形態的態度は, 本症における肺循環系の関与の重要性を示唆しているものと考えられる. 左心室の態度は, 左心室にかかる負荷に対応して, もともと小さかった左心室が急速にその容積を増している状態を示していると考えられ, 容量負荷型対応と考えられる. このように左心室および大動脈弁から上行大動脈におよぶ左心室流出路の低形成は存在するが, Adult conversionの可能性は残されているものと考えられる. |