Abstract : |
表面冷却(単純)低体温下開心術における, 術中の血漿脂質の変動を追求し, その問題点につき検討を加えた. 対象は先天性心疾患30例で, 2歳から10歳, 平均3.5歳. 最低温は24から20℃, 平均23℃(食道温), 血流遮断時間は19から55分, 平均33分である. 冷却時とくに最低温において, 血漿総脂酸, 総コレステロール, 燐脂質およびβリポ蛋白などは低下し(p<0.01), 血漿NEFAは増加(P<0.02)する所見が認められた. また, 各脂質を加算した総脂質に対する各脂質の変動を百分比で表現すると, 中性脂肪の減少(p<0.001)とNEFAの増加(p<0.001)が代表的所見である. 冷却過程における血漿NEFA以外の脂質の減少機序は, 肝からの脂質放出の減少および肝の脂酸蓄積に起因するもので, 低温による肝の一時的機能低下によるものと推測される. 一方, 血漿NEFAの増加機序に関しては, ヘパリン投与時期の検討より, ヘパリンのリポ蛋白リパーゼの賦活作用が重要な因子と考えられる. また, 血漿総脂酸構成比の検討より, オレイン酸の有意の増加は認められず, したがって, 組織脂肪からのNEFA遊離は否定的である. 血清過酸化脂質は, 冷却, 加温および術後を通じて不変であり, その臨床的意義は不明であった. 血漿総脂酸構成比については, 術前, 心疾患児におけるリノール酸の減少が認められたが, 術中は有意の変動を示さず, ソーヤ・レシチン投与も脂酸構成比およびその変動に影響を及ぼさなかった. したがって従来, 強調されてきた抗酸化剤および不可欠脂酸の術前投与の意義を, 術中における脂質代謝面より充分立証するには至らなかったが, 低温における脂質変動の主役は肝臓であり, 術中の脂質代謝異常を迅速に改善せしめるためにも, 術前の肝庇護は重要な問題と考えられる. |