Abstract : |
大動脈弁の手術に際し, 冠潅流を行って心筋の庇護をはかる事は極めて重要である. 教室では冠潅流方法として, 選択的に28℃の血液温で至適体潅流量の10%を目標として左右の冠動脈に5:3に分けて送血する方法を用いて来た. 本研究はこの方法によって冠潅流を行った60例の冠血行動態, 血液ガス動態, 心筋代謝について検討したものである. 血行動態では冠潅流量は左115~127, 右68~76ml/min/M2の間を維持し得た. この冠潅流量による実効冠潅流圧は左117~127, 右113~126mmHgの間を変動し左右の冠潅流圧に有意差を認めなかった. また冠血管抵抗は左0.60~0.70, 右1.01~1.21mmHg/ml/minの間を変動した. これらの値の時間的変動は有意差を認めなかった. 血液ガス動態では動脈血酸素分圧は279~329mmHg, 酸素飽和度は99%以上, 炭酸ガス分圧は40~49mmHgで変動した. 冠動静脈血酸素含量較差は3.2~3.8vol%, 炭酸ガス含量較差は2.9~3.5vol%と低値で変動し, 呼吸商は1.02~1.05であった. またpH較差は0.03~0.05, BE較差は0.3~-1.1mEq/Lと低値であった. 糖質および脂質の冠動静脈血含量較差をみるにpyruvateは0.3~0.6mg/dl, NEFAは0.2~0.3mM/L, triglycerideは2.6~6.8mg/dlの摂取を認めた. Glucoseおよびlactateの摂取は認めなかった. Cardiac excess lactateおよびredox potential較差は冠潅流開始時を除きそれぞれ0.7~0.9mM/L, -1.6~-4.4mVと体外循環前後の値と有意差を示さなかった. これらの結果からみて冠潅流中の血行動態は安定しており, 心筋は嫌気性の代謝を行っていない事が示された. したがって冠潅流中の血液ガス動態, 心筋代謝の多くは先に報告した冠潅流を行わない28℃体外循環中のそれとの間に有意差を認めない事から教室の冠潅流方法は体外循環そのものと同様に安全であり, 適正な冠潅流方法であるといえよう. |