Abstract : |
大動脈弁閉鎖不全を伴う症例では, すでに報告してきた大動脈穿刺冷却潅流法を用いると潅流液の大部分が左室腔内に流入し, 心筋の潅流も不確実となるため充分な心筋保護効果が得られない. そこで大動脈弁閉鎖不全を伴う場合の心筋保護法として冠静脈洞よりバルーン・カテーテルを挿入し, 冷却したModified Krebs液で逆行性に冷却潅流を行い心筋保護を計り, その有用性について実験的に検討することとし, とくに現在広く応用されている誘発電気細動下血液潅流法との優劣についても比較した. 逆行性冷却潅流群は雑種成犬9頭を用い120分間大動脈を遮断, 電気細動群は5頭を用い120分間電気細動を行い, 両群で, 血行力学的検索ならびに血清酵素学的検索を前・後値で比較し, 光学顕微鏡所見, 電子顕微鏡所見も併せて検討した. 逆行性冷却潅流群では潅流開始後5~10分で20℃前後まで心筋温の下降をみるが, 大動脈穿刺法と比較すると平均5℃程高く, 大動脈遮断中はほぼ20℃前後で維持される. 潅流液は1,500~2,000mlを必要とし, 潅流液の75~80%はテベシアン静脈系を経て右心へ, 20~25%は冠動脈口に排除されるが, 左・右両心室で心筋温に差は認めない. 逆行性冷却潅流群, 細動群とも心機能は良好に保たれており有意の差は認めないが, 細動群では心筋酵素でGOT, CPKの逸脱量がより多い傾向を示し, 血清K値でも逆行性冷却潅流群ではみられない心筋細胞の破壊を示唆すると思われるKの遊出を認める. 光学顕微鏡所見では, 出血, 空胞化, 心筋線維配列異常, 濃染などの所見が細動群で強く, 逆行性冷却潅流群で軽度であり, 電子顕微鏡所見でもミトコンドリアの膨化, 空胞化などは細動群で強く, 逆行性冷却潅流群ではミトコンドリアの形態は比較的良く保たれている. このように逆行性冷却潅流法は電気細動法と比較すると心筋保護法としてよりすぐれたものであり, 充分臨床応用可能な方法である. ただし, 大動脈穿刺潅流法と比較すると心筋冷却効率がやや劣り, 阻血許容時間も多少短縮されると思われる. 臨床応用上注意すべき事は左心ベントより気管支動脈還流血が潅流液と一緒に排除されるため, 脱血に対する配慮が必要である. |