Abstract : |
1965年9月から1976年6月までに教室で行なわれた後天性僧帽弁膜症104例(僧帽弁狭窄42例, 閉鎖不全62例)に対するStarr-Edwardsボール弁単弁置換例を対象として手術成績, 手術による改善度, 合併症の頻度を調査し, また術後遠隔時の血行動態, 心機能を右心カテーテル検査を中心として, 心機図を用いて検索し以下の結論を得た. 対象104例の生存率は5年で87.1%, 10年で79.5%であった. 生存87例のNYHA心臓機能分類はNYHA II度以下が78例(89.7%)と手術による改善度は良好であったが, 狭窄例の改善が閉鎖不全例に比し劣っていた. 病院死亡5例, 遠隔死亡12例の死因のうち人工弁に起因する合併症(脳血栓塞栓症, 血栓弁, 過大人工弁等)が死因の一位を占めた. また血栓弁による弁機能不全の3例, 頻回の血栓塞栓症を惹起した1例に再弁置換が必要であった. 血栓塞栓症の発生頻度は従来発表されていたよりも高く, 非被覆弁で9.8%年度被覆弁で5.3%年度で, 人工弁としての信頼性の面での問題が提起された. 遠隔期右心カテーテル検査ではPAw.mは18.0mmHg, PAmは28.6mmHg, PPVRは169dyne/sec/cm5と術前のそれぞれ25.6mmHg, 40.5mmHg, 252dyne/sec/cm5よりも下降したが僧帽弁狭窄例ではPAw.m, PAm, PPVRが術後も高値に留まる傾向が認められた. Isoproterenol負荷を行うとPAw.m, PAmは上昇したが, PPVRは狭窄例でも負荷中は良く下降した. 心機図から得られた左室機能を僧帽弁狭窄と閉鎖不全で比較すると閉鎖不全が劣っていると解釈された. 術後の改善度は臨床所見, 血行動態共に狭窄例が閉鎖不全例に比し劣ることが示されたが, ボール弁では中心流が得られず, 左室容量の比較的小さい狭窄例でのボール弁使用は問題が多いと考えられた. |