Abstract : |
開心術での手術操作を容易, かつ確実に行うためには無血静止の手術野が望まれる. 近年, この目的のために低温を併用したpotassium cardioplegiaが広く使用され多大の成果をあげている. 著者らは本法による効果は, 1)低温と, 2)カリウムによる心停止の二要素によると考え, 心筋庇護における2つの要素それぞれの関連度を実験的に検討した. 実験には雑種成犬19頭を使用し, ヘマトクリット値30%の希釈体外循環下に90分間の大動脈遮断, cardioplegic solution注入を行った. 使用したcardioplegic solutionは二種の異なる組成および2種の異なる温度の組合せの計4種で, 1)EL低温群(EH群):5頭, 2)EL常温群(EN群):4頭, 3)Krebs低温群(KH群):6頭, 4)Krebs常温群(KN群):4頭の計4群とした. 低温群では体外循環中の食道温を25℃とし4℃に冷却したEL-3号液(K+ -35mEq/L含有)あるいはmodified Krebs液(K+ -6.2mEq/L含有)を大動脈遮断と同時にaortic rootより用手注入し, その後は30分ごとに100mlを追加注入した. 低温群では大動脈遮断中はice slushにより心臓の表面冷却を行った. 常温群では食道温, 注入液温ともに37℃とし前群と同様の操作を行った. 心筋庇護の良否の判定は体外循環脱却率と術後の心機能測定によった. また, 大動脈遮断前後の逸脱酵素, 電解質の変動などについても検討を加え成績を補完した. 人工心肺脱却率はEH, KH群で100%, EN群で50%, KN群で0%であった. 人工心肺脱却後の心機能はEH, KH群では術前に比し満足すべきものであった. 一方, ともに常温のEN, KN群では前者で著明な機能低下を示しKN群では全例蘇生しえなかった. すなわち, 本実験で示された結果についてみるとカリウム濃度で30mEq/L, 心筋温度差で30度の相違のうち結局, 温度差の方が心筋庇護においてより深い意義を有するといえる. すなわち, カリウムによる急速な心停止, 心筋エネルギーの保存は紛れもなく心筋庇護に関与するものであるが, 事実上は同時に使用する低温が心筋庇護に極めて大きな影響を有するという結論に達した. |