Abstract : |
グルタールアルデヒド(GA)処理豚大動脈弁bioprosthesisが意外と圧較差が大きく, その圧較差は使用した弁のsizeと無関係に発生していることに気付いた. そこで, 本弁の圧較差を生む原因について基礎および臨床例から検討を行い, Bjork-Shiley(B-S)弁と比較した. GA濃度を0.05から5.0V%まで変えて, 犬大動脈弁を処理し, 弁尖の材料力学的特性を流動特性試験装置により調べ, 新鮮弁と比較した. GA濃度が0.1%までは弁尖の柔軟性が濃度の増加とともに低下するが, 0.1%から5.0%までは有意差を示さなかった. したがって, 現存のbioprosthesisはGA処理濃度に関する限り, 弁の柔軟性に差はなく, 血行力学的差異はないと考えられる. 流動特性試験装置で得られたbioprosthesisの圧較差はB-S弁よりも大であり, bioprosthesisの中心軸を水流中心軸から傾けて装着したところ, 圧較差は両中心軸のずれ角度の増大とともに増加した. bioprosthesisによる大動脈弁置換術を行った症例の血流中心軸に対する人工弁のずれ角度θ°と圧較差ΔPbmmHgとの関係は, 相関係数0.92をもってΔPb=1.50θ-0.61の回帰直線で表わされた. 同症例を心拍出量6L/分にnormalizeすると, この関係は相関係数0.91と高い相関をもってΔPb=2.29θ0.85の式を得た. 基礎実験で得た両者の関係を同一座標上に表示すると, 臨床結果から得られた式によく合致した. これは曲り管の曲り角度と圧損失との関係に近似しており, いずれもθの一次関数とみなしうる. したがって, bioprosthesisの圧較差発生にはずれ角度が関与しており, 圧較差はその角度の一次関数として表示される. これに対してB-S弁のずれ角度は圧較差にほとんど影響を及ぼさなかった. これは, bioprosthesisが三角錐状の開口をなし, 大動脈内でさらに細い管を形成するのに対して, B-S弁は閉鎖子とValsalva洞との間に真の弁口を広く形成していることによるものと考えた. |