Abstract : |
すぐれた代用気管が得られるならば, 気管再建の機会は相当に多いものと考えられている. 著者はまず最近の諸種生物材料のglutaraldehyde処理法に着目し, 同種(イヌ)および異種(ブタ)気管を用いて, 1%ficinで蛋白成分を除去後, 0.5%glutaraldehydeで固定処理した代用気管を作製し, 雑種成犬10頭の頚部気管におのおの5例ずつ移植して検討した. その結果は, 移植後1~2週頃より感染や拒絶反応を起こし, 短期間に劣化, 脱落する例が相つぎ, 最長42日の生存を得るに終わった. それらの経験から, 代用気管の組織内埋植性の特質を考慮し, 純粋の合成材料である, Marlex meshをとりあげ, これに移植直後の気密性と組織親和性とを付加する目的で, その外周を生物材料である自家心膜, あるいはヒトフィブリン膜で被覆した代用気管を考案作成し, 雑種成犬28頭の頚部に移植した. その結果, 自家心膜は約1ヵ月間生着状態を保ち, ヒトフィブリン膜は約2週の間原形を留め, 術後の空気漏逸や感染を防止しえた. またその後は徐々に新生結合織と置換し, 網目への肉芽の均等な伸長が得られた例では最長186日および418日の生存例を得た. しかしながらいずれの方法においても, 生存期間が長くなるに従い, 程度の差はあれ吻合部における肉芽の過剰増生による狭窄を生じた. それで気管縫合糸の材質が狭窄の招来に関与しているか否かをも検討したが, それの影響はむしろ少ないことが判明した. すなわち現段階においては, 代用気管素材として異物反応が少なく, 適度の強度をもったMarlex meshが最適と思われ, さらにこの代用気管を組織親和性のある自家心膜あるいはヒトフィブリン膜などで包被成形して用いれば, 従来のものに比べて格段にすぐれた代用気管として用いることができ, ここに臨床応用の可能性を高めえたと考える. |