Authors : |
相馬康宏, 川田光三, 竹内成之, 高野信篤, 今村洋二, 小田桐重遠, 加藤木利行, 仁熊浩, 梅津泰洋, 井上正 |
Abstract : |
弓部大動脈瘤切除術を行うには, 心負荷の軽減, 虚血による脳, 脊髄などの損傷回避のためになんらかの補助手段を要する. われわれは脳分離体外循環法を用いて15例の上行・弓部大動脈瘤手術を行った. 年齢は35~76歳, 平均52.9歳, 男性11, 女性4であった. 人工血管置換6例, パッチ修復7例, 大動脈弁置換+解離腔閉鎖端々吻合2例であった. 手術死亡は5例であったが, このうち4例は昭和49年以前の症例で, 昭和50年以降は感染による縫合不全からの大出血で術後4週目に1例を失ったのみであった. 脳潅流には独立したローラーポンプを用い14~16Fのカニューレを使用した. 送血量(ml/kg/min)は右腋窩動脈11.6±5.8, 右総頚動脈7.2±1.4, 左総頚動脈6.6±1.9, 左腋窩動脈3.3±0.8であった. 全脳潅流量は791.8±249.4ml/minであった. 脳潅流上の問題点としては適正な流量と方法が確立されていないことであるが, われわれは脳合併症を経験しておらず, あるいはもう少し低流量でも十分である可能性は否定できないとしても, 現在の方法を一応満足すべきものと考えている. 従来は人工心肺で心臓へのpreloadを除去し, 上行大動脈遮断, 心拍動下に手術を行ってきたが, 術中に心室細動に陥入った症例もあり, 通常, 心阻血時間を120分以内に留めうるので, cardioplegia+topical coolingによる心筋保護を用いる傾向にある. 最近5年間の手術成績の向上は適応の変更によるものではなく, 動脈瘤を剥離せず人工血管を動脈瘤内で吻合すること, 撤底した心筋保護, activated clotting timeモニターや血小板輸血など出血対策の進歩によりもたらされたものと思われる. |