Abstract : |
開心術後の腎機能障害は術中管理を含めた術前後管理の向上した現在においても重大な合併症であり, 重篤な腎不全へ進行する例もみられる. 著者らは弁膜症を中心とした後天性心疾患80例を対象として, 術後早期のBUN, 血中クレアチニン値から腎機能障害例と正常例について, また重篤な腎不全へと発展した例について検討した. 術前のBUN, 血中クレアチニンは腎機能障害例でも正常範囲内にある例が多いが, 正常例に比較するとやや高値で, NYHA分類からみると重症例に腎機能障害例が多い. 術中の心筋保護法は間歇冠潅流法, 局所冷却法, 局所冷却にcardioplegia法を附加した3法が行われ, 間歇冠潅流法で行った群では腎機能障害の発生率が高く, また術前の重症度からみてcaldioplegia法を併用した群ではその発生率は減少している. 体外循環条件については体外循環時間には有意差がみられたが(P<0.005), 潅流圧, 潅流量については差はみられななかった. 術後経過からみると腎機能障害例では低心拍出症を示す例が多く, カテコールアミン, 利尿剤などが頻回に投与されており, 呼吸器の使用も長時間に及んでいる例が多い. 透析治療を必要とした腎不全は5例に経験したが, これらの症例は年齢, 体外循環時間ともに他の症例に比較して特別に大きなrisk factorとはなっておらず, 術後経過中に併発した呼吸障害, 心タンポナーデ, 急性肝不全などが腎不全を増強させた大きな因子であることが示され, 重篤な腎不全発生には体外循環中に発生する腎障害および術後心機能が不安定で, その回復が遷延している間に発生する合併症が大きな比重を占めるものと考えられる. |