Abstract : |
近年, 弁再建手術の有効性が再認識される傾向にあり, 著者らは自験例につき検討した. 1973年11月より1979年4月迄の期間の天理病院における後天性弁膜症手術症例中弁再建手術のみ行った108例では早期死亡はなく, 43例の弁置換で6例が早期死亡した. 開心僧帽弁交連切開術(OMC)例は99例, 逆流を有しない純型僧帽弁狭窄症例で弁置換を行った例はない. 術後1ヵ月頃に心カテーテル検査を行い手術による改善度をみた. OMC例では肺毛細管圧(PC圧)術前22.76±7.7mmHgが術後13.24±5.05mmHgに, 僧帽弁口面積(MVA)は術前1.09±0.50cm2が術後2.18±0.79cm2にそれぞれ改善した. 一回拍出係数も術後増加の傾向を示した. このようなOMCによる術後血行動態の改善において, 乳頭筋縦切開の占める役割を検討した. 乳頭筋を5mm以上の深さにわたり切開しえた10症例ではPC圧は術前19.2±6.55mmHgが術後10.7±3.02mmHgに, MVAが術前1.08cm2が術後2.53cm2と著明に改善した. シネ左室造影による検討で拡張終期および収縮終期における左室腔の形や左室短軸の計測を行い, 左室収縮性の減少, 左室壁posterobasal areaの変形や運動制限の程度などを調べた. その結果, 乳頭筋切開を交連切開時に実施できた弁病変高度例でこれらが術後改善する傾向を認めた. 以上の結果は, 弁再建手術が安全, 確実な手術手技となっていることを示す. また, 従来ともすれば充分な改善が得られないとされていた腱索短縮の強い弁下狭窄高度の例でも, 乳頭筋切開を加えることによりPC圧, MVAなどの明白な改善と, 左室収縮性やコンプライアンスの改善を得る可能性を示した. 弁輪縫縮術も, 適応を選んで実施すると極めて満足すべき血行動態と心陰影改善とを得ることができた. |