Abstract : |
実験モデルとしてあらかじめ作成した左室肥大を使用し, 虚血に対するCoenzyme Q10(CoQ10)の心筋保護効果を検討した. すなわち, 左室肥大犬10頭を5頭ずつ, CoQ10投与群(経静脈的および冠動脈内投与の併用)と非投与群とに分け, これら2群に対し, 直腸温で30℃前後の軽度低体温を併用した完全体外循環下に2時間の大動脈遮断を行い, 左室心内膜下および心外膜下両筋層におけるエネルギー代謝の経時的変動を定量的に分析した. CoQ10非投与群では, 虚血の進行とともに心筋内ATP含量は大きく低下し, 大動脈遮断120分後には, 心内膜下筋層が7.21±0.40μmol/gから1.00±0.20μmol/gへ, 心外膜下筋層が6.11±0.19μmol/gから1.44±0.14μmol/gへと低下し, 前者がより低値を示した. 心筋内CP含量も虚血後漸減を示し, 遮断120分で心内膜下筋層が12.7±1.1μmol/gから2.5±0.8μmol/g, 心外膜下筋層が10.0±0.7μmol/gから3.5±1.2μmol/gにまで低下した. また, 心筋内乳酸含量は漸増し, 遮断120分で心内膜下筋層が47.5±3.0μmol/g, 心外膜下筋層が42.9±2.8μmol/gとなり, 前者がより高値を示した. 一方, CoQ10投与群では, 大動脈遮断120分においても心筋内ATP含量は, 心内膜下筋層で7.20±0.39μmol/gから4.07±0.28μmol/gへ, 心外膜下筋層で6.23±0.26μmol/gから3.34±0.31μmol/gへの低下にとどまり, いずれも非投与群に比較し有意差が認められた(それぞれ, p<0.001, p<0.005). 心筋内CP含量は, 遮断120分で心内膜下筋層が15.4±0.9μmol/gから6.2±1.0μmol/gへ, 心外膜下筋層が12.8±0.7μmol/gから5.8±1.1μmol/gへの低下を示すのみで, とくに前者では非投与群との間に有意差が認められた(p<0.05). また, 心筋内乳酸含量は, 遮断120分においても心内膜下筋層が37.2±2.6μmol/g, 心外膜下筋層が33.1±2.3μmol/gの増加にとどまり, いずれも非投与群との間に有意差が認められた(両者ともp<0.05). 以上の結果, CoQ10の投与により, 2時間の虚血に基づくエネルギー代謝障害が軽減され, 肥大心筋が保護されたものと推察された. |