Abstract : |
本研究ではKirsch液単独の心筋保護効果を知るために, 体外循環を用いた動物実験において, 単純anoxic arrest心(以下コントロール群)とKirsch液停止心(以下Kirsch群)を超微構造並びに心機能より比較検討し, 以下の知見を得た. なお大動脈遮断時間は45分間または60分間とし, 遮断中の心筋温は30℃に維持した. 1)45分間大動脈遮断の超微構造では, 遮断後40分には両群ともに筋線維間隙の開大, グリコーゲン顆粒の減少, ミトコンドリアの基質の電子密度の低下, ミトコンドリアのクリスタの配列の乱れがみられる. 解除後5分では筋線維間隙の開大が若干軽度となってくる. 解除後20分になると両群ともほぼ正常にまで回復していた. 遮断中, 解除後ともにKirsch群で変化が少ないように思われたが, 著明な差は認めなかった. 2)60分間大動脈遮断の超微構造では, 遮断後55分の変化は前記遮断後40分の変化が強くなっているが, 両群間に著差はなかった. 遮断解除後5分ではコントロール群は解除前に比べ悪化するのに対し, Kirsch群ではすでに回復する傾向にあり, 両群間には著明な差が認められた. さらに解除後20分ではKirsch群はほぼ正常近くまで回復しているが, コントロール群の回復は十分ではない. 3)60分間大動脈遮断において, 遮断解除後のミトコンドリアスコアは, Kirsch群が有意に高値を示した. 4)60分間大動脈遮断例の再潅流時間はKirsch群が有意に短った. 5)コントロール群ではKirsch群に比べ, 人工心肺よりの離脱困難な例や, 離脱のために左房圧を上げる必要のある例が多かった. 6)容量負荷に耐ええた例はKirsch群に多い傾向にあった. 以上より, Kirsch群ではanoxiaからの心筋の回復がコントロール群より早く, Kirsch液は心筋保護の一助となりうるものと考えられた. |