Abstract : |
大動脈弓は通常ならば, 発生学的には第4動脈弓より形成される. 6対ある動脈弓のうち残存するのは第3, 第4, 第6の動脈弓である. 第5弓は動物ではその存在が確認されていたが, 人間においては存在するとしても一時的で胎生期の極めて早期に消失するものと思われていた. 人間における第5大動脈弓の遺残例は本例を除いて文献上6例を数える. すべて乳児重症例であり, 本症例のような成人例はない. しかも本例では, 第5弓が遺残したために発生したと思われる動脈瘤を左鎖骨下動脈に合併していた. その他, 遺残した第5弓からなると思われる大動脈弓に縮窄症があり, 第4弓は離断していた. この離断した状態の第4弓と下行大動脈との間に連続性があり本症の診断根拠とした. 本例のように第5弓遺残に第4弓離断を伴うと, 主要血管分枝は特徴的な形態を取る. その形態について正常パターンと比較検討した. われわれは本例に対し, 左鎖骨下動脈瘤を切除し人工血管にて置換し, 上行大動脈と下行大動脈の間にバイパスグラフトを置くことにより, 解剖学的な修正を施す手術を行った. 術後経過は良好であり血行動態は改善している. |