Abstract : |
1978年7月より日本大学医学部第2外科教室では, 弁置換症例に対しpyrolytic carbonより構成された2枚のdiscを用い複葉中心開口方式をとっているSt. Jude Medical弁を用いている. 今回, St. Jude Medical弁を中心にして, 過去に当教室で施行したStarr-Edwards ball弁, Carpentier-Edwards弁での置換例とをあわせて弁置換後の慢性溶血について比較検討し, さらに溶血の指標についても検討を加えた. 僧帽弁位での三者の比較では, Starr-Edwards弁(Model 6400)が一番強い溶血を示し, St. Jude Medical弁, Carpentier-Edwards弁がこれにつづいた. また, St. Jude Medical弁, Starr-Edwards弁でのsize別での比較では, おのおのにsizeによる溶血の程度に差を認めなかった. 大動脈弁位での, St. Jude Medical弁とStarr-Edwards弁(Model 2320)の比較では, Starr-Edwards弁の方により強い溶血を認めた. 大動脈弁位と僧帽弁位との比較は, St. Jude Medical弁では弁位による溶血の差を認めないのに対し, Starr-Edwards弁では大動脈弁位の方により強い溶血を認めた. St. Jude Medical弁での単弁置換例(僧帽弁, 大動脈弁)と二弁置換例(僧帽弁+大動脈弁)との比較は, 二弁置換例の方により強い溶血を認めたが, Starr-Edwards弁の大動脈弁置換例と比較すると, 軽度であった. 溶血の指標としては, 現在いろいろな指標が挙げられているが, 検査の簡便さ, 信頼度を考えると, 血清LDHが最も信頼できる指標と考えられる. 溶血については, St. Jude Medical弁は, Carpentier-Edwards弁に劣るが, その程度はごく軽度で生体内で充分に代償可能であり, その耐久性を考えると, 理想的な人工弁がない現在では, 優れた血行動態的特性も考えあわせると, 今後, 非常に期待される人工弁であると考える. |