Abstract : |
高カリウム液冠潅流による心停止法は心臓手術において, 無血静止術野を確保し, 虚血心筋を保護する方法として近年広く臨床に応用されるようになった. しかし高カリウム心停止法が心筋冷却とは独立した心筋保護効果を有するのか否か, また高カリウム液の組成として最良の組成はいかなるものであるかについては未解決となっている. これらの点を明らかにするために雑種成犬30頭について次の実験を行った. 全例完全体外循環下に2時間の大動脈遮断を行い, 以下各群6頭ずつ, I群)心筋保護施行せず, IIA群)25℃Normosol K液(K25, Na138, Cl98, Mg3, Ca1, HCO3-20mEq/L)で間歇的潅流, IIB群)同上液を4℃として同一条件で潅流, 心筋局所冷却を併用, IIIA群)Lactated Ringer K液(K30, Na131 Cl136, Ca3, 乳酸28mEq/L, グルコース8g/L)をIIA群と同一条件で潅流, IIIB群)同上液をIIB群と同一条件で潅流した. 体外循環開始前および終了後左房圧を変化させて左室機能を測定し, それによって心筋保護方法と心筋保護効果の関係を検討した. また電子顕微鏡により心筋微細構造を観察した. 結果:1)2時間の単純大動脈遮断により左室機能は全く失われ, 電顕組織像では著しい破壊像が認められた. 2)Normosol K液の25℃潅流群では大動脈遮断解除後左室ポンプ機能は40~70%回復し, 同液の4℃潅流では左室機能は100%回復した. 3)Lactated Ringer K液の25℃潅流では左室機能は約60%, 同液の4℃潅流では約80%回復した. 電顕組織像ではIIA, IIIA群ではミトコンドリアの破壊像など中程度の破壊像が認められたが, IIB群, IIIB群では破壊像はほとんど認められなかった. 結論として高カリウム心停止はそれ自身虚血心筋の保護作用を有するが, 心筋冷却を併用することにより保護効果は相加的に増大し, また冠潅流液中のグルコース, 乳酸の存在とマグネシウムの欠如は虚血心筋の保護上好ましくないと考える. |