Abstract : |
胸腺を発生母地とする腫瘍は, 免疫学的観点からも興味深く, 本腫瘍に随伴する全身的合併症に関していまだ解決されていない点が多く, また全縦隔腫瘍に占める発生頻度が高いにもかかわらず, 組織学的所見と予後が必ずしも一致しないばかりか, 治療法もいまだ確立されているとはいい難い. 過去16年間にわたって手術を行った胸腺腫48例に関して, 術前合併症, 術前血液免疫学的検査成績, 手術術式, 術前術後の補助療法, 剔出腫瘍の組織学的検査成績, 胸腺腫の転移, さらに術後の遠隔治療成績等を検討した. 術前合併症としてはMG4例, 再生不良性貧血と低γ-グロブリン血症が各1例, 計6例にみられたが, 6例中5例は術後72日~2年で死亡し, 全身的合併症を有する胸腺腫の予後は不良であつた. 術前検査成績では, 被包型に比較して浸潤型で末梢血の血色素量とA/G比の低下が有意にみられ, 血液免疫系により大きな影響を及ぼしていることが示唆された. 浸潤型胸腺腫においては, 被包型21例で全剔された反面, 27例中全剔できたものは6例のみであり, 腫瘍周囲組織を合併切除したのは11例あつた. 予後をみると被包型では10年以内に4例死亡しているが腫瘍死したものはなく, 5年生存73.3%, 10年生存63.6%であつたが, 浸潤型では5年生存22.7%, 10年生存10.5%であった. 合併切除したものでは5年生存42.8%, 10年生存33.3%であった. 組織学的検査成績では, 浸潤型に上皮型が多いのが目立った. 浸潤型胸腺腫では胸腔内播種や遠隔転移が27例中14例(51.8%)にみられた. 浸潤型胸腺腫の手術に際しては, 合併切除を加えても腫瘍を可及的剔除すべきであり, 術後は照射療法に加えて化学療法が必要なことが示された. |