Abstract : |
教室および関連病院でA-Cバイパス術のみを行った陳旧性心筋梗塞は男41例, 女2例の計43例であり, その外科治療の意義について検討を加えた. 手術死亡の5例(手術死亡率11.6%)はすべて多枝バイパス術を行った3枝病変症例であるが, 心筋保護方法として軽度低体温下にcardioplegiaと心局所冷却法を併用するようになった1978年6月以降の18例では手術死をみていない. 術後3ヵ月時のグラフト開存率は90.2%・症状改善率は92%であり, 術後3ヵ月~6年4ヵ月(平均2年9ヵ月)の経過観察中の再梗塞の発生や死亡はなく5年生存率は88.4%である. 負荷心筋シンチグラフィーを17例に行い, 術前には全例にstress-induced low activity areaを認めたが, 術後にはグラフトが開存している14例ではstress-induced low activity areaの出現を認めていない. 術前のLVEDPが11mmHg以上の症例では, LVEDPは術前15.4±3.4mmHgより術後8.5±2.4mmHgへ有意に低下し(p<0.005), EFは術前0.48±0.10より術後0.62±0.11へ上昇している(p<0.02). しかし, 術前のLVEDPが10mmHg以下の症例ではバイパスグラフトが開存しているにもかかわらず術前後のLVEDPやEFに有意差を認めていない. また術前にasynergyを認めた43セグメントのうちバイパスグラフトの開存により23セグメント(53%)で壁運動の改善を認めており, これらはすべて梗塞周囲の血流改善を目的として前下行枝へバイパス術を行った症例であり壁運動の改善に伴い全左室機能も向上している. 以上のような成績より, 梗塞周囲領域に対するA-Cバイパス術は症状の改善や遠隔死亡の予防のみならず左室機能の改善をもたらすことが期待でき, 虚血性心疾患においてはcomplete revascularizationを目標として積極的に外科治療を行うべきと考えている. |