Abstract : |
開心術中の心筋保護法は心筋保護液の使用と心筋冷却法の併用が主流をなしている. 心筋冷却は心筋を長時間安定した低温に保ち続け, しかも心筋内温度較差を最少限とすることが重要である. この目的には心筋温度を正確に測定できる安全な心筋温度計の開発と, 心臓外の熱源の遮断が重要となる. そこで, 新しい極細心筋温度センサー(MTS)の開発と, 心筋冷却コイルを考案して臨床応用を行った. MTS:Chromel-alumelの熱電対をインコネルで被覆して感温部とした. 外径は0.25mmと細く, flexibleであるので, 心筋内への刺入深度や方向も自由に変えることができる. MTSの熱起電力と水銀温度計の温度との間には7℃以上で極めて良好な直線関係が得られた. MTSを左心室心尖部附近で心内膜下筋層まで刺入固定し, 開心術中の心筋温を経時的に記録した. MTSの固定には1針固定で充分であり, 抜去も容易であった. この操作は心拍動下でも心筋損傷を来すことなく行い得た. 心筋冷却コイル:外径5mmのビニール管をバスケット状のコイルに編み, 左心室を包むように心嚢内に挿入し, 心嚢から左心室を隔離した. 冷却水をポンプでコイルを通して心嚢内に流出させ, 他の吸引管にて冷却槽内に還流させた. 人工心肺により直腸温は25℃以上に保ったが, 3-6℃の冷却水を300-400ml/分で心嚢内持続潅流を行った結果, 心筋温は8-15℃の間に安定し, 大動脈遮断最長3時間が可能であった. 冷却コイルを使用しなかった対照群では心筋温が18-27℃の間を上下し, 2例に心筋梗塞の発生をみた. 冷却コイルにより心臓を心嚢から隔離するとともに心嚢内持続潅流を行い, 心臓への人工心肺からの血液を断つことにより心筋保護は著しく改善された. 作成したMTSは心筋温モニターとして有用であった. |