Abstract : |
心筋細胞内酸素濃度は, 細胞レベルでの酸素需給のバランスを直接表示する新しい指標である. これは心筋ミオグロビンを“細胞内酸素指示物質”として用い, 分光測定によって求められる. 今回, この新しい指標を用いてK+cardioplegia法を細胞内酸素代謝の面から検討した. ネズミ摘出で標本をLangendorff法を用いて酸素化Krebs Ringer液により潅流し, 心電図, 左室圧, 冠流量, 冠流出液酸素濃度の連続測定を施行した. 細胞内酸素濃度測定は左室表面反射光をスペクトル解析して求め, 酸素飽和及び窒素飽和液潅流により酸素濃度を較正した. 心筋保護液として, A)K+添加ハルトマン液(K+29mEq/L), B)plasmalyte 148(K+26mEq/L, Mg++3mEq/L)を用い, 1~3時間心筋保護における細胞内酸素濃度と蘇生状況, 心機能回復を検討した. 1. 間歇時冷却心筋保護液灌流群:心筋温22℃以上, 1時間心筋保護群では, 遮断時酸素濃度は10-7Mまで下降, 全例に再灌流後心拍再開を認めたが, 保護液A使用例に細胞内Hypoxiaが持続した. 心筋温15~17℃以下の場合, 2~3時間の虚血心停止後も比較的良好な心蘇生を認め, 特に乳酸を含まないB液(酢酸を基質に含む)使用群に蘇生後心機能, 酸素濃度回復が優れていた. 2. 酸素化保護液低圧持続灌流群:心筋温15~17℃, 3時間保護に際して遮断時細胞内酸素濃度は, 2~3×10-6M以上(非酸素化の場合, 10-7Mまで低下)を示し, 再灌流により良好な心機能の回復と酸素濃度の好気時レベルへの回復を認めた. 3. ミトコンドリア酸素代謝:Cyt. aa3の酸化還元レベルを指標に, 3時間保護例でのMt呼吸能を検討した. これより遮断時細胞内酸素濃度を10-7M以上, 可及時10-6M以上に保つことが心筋保護の安全性に連なると考えられた. 結論として, 乳酸を含まないk+-cardioplegia液を酸素化, 頻回の間歇的冠灌流により, 3時間の心筋保護は安全に施行可能と考えられた. |