Abstract : |
従来なら選択的冠動脈灌流を行わねばならない大動脈弁手術に対し, 冠静脈洞より逆行性, 持続的にblood cardioplegiaを行い, 長時間大動脈遮断時(ACC>120分)の安全性について臨床的, 酵素学的に検討した. 1983年9月より1987年2月までの3年6カ月間に連続して行った大動脈弁手術45例中, 術後早期にstuck valveにて死亡した二弁置換術の1例を除いた44例を対象とし, 大動脈遮断時間120分未満の23例をGroup1に, 大動脈遮断時間120分以上の21例をGroup2とし比較した. 術後酵素の変動についてみると, 術直後, 3, 6, 18時間の経時的変化では, 全般にGroup2が高値をとる傾向を示し, CPKは6時間, GOTは18時間でそれぞれ, Group2が高値を示した. しかしCK-MBは両群間に有意差は認められなかった. これらのうちLVESVIが200mlを越えた重症症例はそれぞれ202, 218, 248mlの3例で左室駆出率も25, 28, 27%と著明に低下していたが全例術後経過は順調でLOSに陥ることも, 不整脈のためlidocaineを必要とすることもなく, ICU滞在もそれぞれ2日から6日であった. 更に34歳男性のannulo aortic ectasiaに対するBentall手術では解離が左の冠動脈口にまで及んでいたが, 逆行性の心筋保護法を用いることによって手術を安全且つ簡便に行い得た. 逆行性blood cardioplegiaは大動脈遮断時間が120分以上に及ぶ場合であっても, 1.二弁手術症例で術野が両方にまたがる時, 更に三尖弁輪形成術などを必要とし心房切開を行う症例, 2.冠動脈口に解離が及び選択的な心筋保護液の注入が困難と思われる上行大動脈動脈手術やBentall手術などがよい適応と思われる. |