Abstract : |
胸部大動脈遮断時にみられる脊髄虚血のモニターとして脊髄誘発電位(ESP)の測定が行われてきているが, その変化と脊髄の病理組織学的変化を詳細に検討した研究は少ない. 本研究では雑種成犬を用い, 胸部大動脈遮断前, 中, 後にESPをモニターして波形分析し, 遮断解除後に対麻痺の有無と型を判定し, 脊髄の病理組織学的変化を検索した. 実験犬はA, B群に分け, A群では波形変化にかかわらず60分大動脈遮断を継続し, B群ではESP振幅が遮断前の20%以下となった後10分後に, 60分まで待たず遮断を解除した. ESPの波形変化はI~IIIの3型に分類された. 脊髄の病理組織学的変化は分節ごとに検討し, 重症度により0~3度の4段階に分けた. A群では, ESPの低下するESPI型の5例中4例(弛緩性麻痺3例, 痙性麻痺1例)とIII型の5例中2例(弛緩性麻痺1例, 痙性麻痺1例)に対麻痺を認めた. ESP変化のないII型では, 9例中1例が推弓切除時の機械的損傷により不全麻痺を示したが, 他の8例は対麻痺を認めなかった. B群3例はすべてESPI型で, 早い遮断解除にもかかわらず, すべて対麻痺(弛緩性麻痺2例, 痙性麻痺1例)を認めた. 病理組織学的には弛緩性麻痺例では, 下部胸髄以下に連続的に3度以上の高度な病理変化を認め, 痙性麻痺例では分節的, あるいは下部腰髄以下に3度以上の病理変化を認めた. すなわち, 麻痺の発生は, ESPの波形変化に密に関連し, 麻痺の型は病理組織学的変化の重症度と範囲に密接に関連していた. また, B群の検討から, ESPの振幅が一定以下に低下してから不可逆的変化の発生までの許容時間は比較的短いと考えられた. |