Abstract : |
1975年から1987年12月までに生体弁あるいは機械弁を用いて単独の僧帽弁置換術(MVR)を行った443例を対象としてその遠隔成績を比較検討し, MVRにおける人工弁の選択について検討を加えた. 生体弁102例では主にCarpentir-Edwards(C-E)弁を, 機械弁341例では全例にSt. Jude Medical(SJM)弁を使用した. 観察期間は生体弁で888.9患者・年(p-y), SJM弁で1479.8p-yであった. 手術死亡, 遠隔期の累積生存率, 人工弁に起因する死亡には生体弁, SJM弁の両弁間に有意差はなかった. 血栓塞栓症(TE)はSJM弁では7例(0.47%/p-y)に発生し, 術後9年のTE非発生率は97%であった. 生体弁では5例(0.67%/p-y)に発生し, 術後13年のTE非発生率は92%で, SJM弁との間に有意差は認められなかった. 弁機能不全はSJM弁では人工弁周囲逆流(PVL)を2例に認めたのみで術後9年の弁機能不全非発生率は98.9%であった. 生体弁では術後6年以降弁機能不全が急増する傾向がみられ, 13年までに32例に33回(3.71%/p-y)に発生した. このうち32回はPrimary tissue failure(PTF)によるものであった. 術後7年, 10年, 13年の弁機能不全非発生率は88%, 65%, 35%で7年以降SJM弁との間に有意差を認めた. SJM弁では8例に人工弁による溶血を経験したが臨床的に問題となるものではなかった. PVE, 出血性合併症については両人工弁に有意差を認めなかった. 以上の結果から生体弁では耐久性の問題が未解決であり, 抗血栓性においても抗凝固療法下ではSJM弁との間に有意差を認めなかったことを考慮しMVRでは人工弁としてSJM弁を第一選択と考えている. |