Abstract : |
心臓の収縮機序の中心的な役割を担っているミオシンには, 収縮の強度を表すCa 2+-activated adenosine triphosphatase(ATPase活性)があり, αとβのタイプが存在する. 普通心房筋はαタイプ, 心室はβタイプのミオシンである. しかし心房筋に負荷が加わり肥大, 拡張すると心房筋のミオシンがβタイプに転換してくることが知られている. そこで開心術時に右心房筋を採取できた右心系負荷を呈する三尖弁閉鎖不全(以後TR)合併処置群6例と非TR群7例に対し, 体外循環開始前の採取心筋からミオシンを抽出してCa-ATPase活性を測定した. そしてこの活性値と術前右心カテーテルで得られた右房圧(以後RA圧), 右室圧(以後RV圧), 右心のstroke volume index(以後SVI)そして心筋収縮性を表す指標として右室maxDp/Dtなどとの相関の有無を検討した. TR群のミオシンCa-ATPase活性値は398.1, 非TR群のそれは533.9nmol pi/mg/minで有意(p<0.05)にTR群が低値であった. 全症例の活性値とRA圧との間にy=-0.019x+19.60(r=-0.68429), RV圧との間にy=-0.039x+58.67(r=-0.73484), SVIとの間y=0.05x+18.1(r=0.87587)そしてmaxDp/Dtとの間にy=-0.42x+589.9(r=-0.67493)の相関が得られた. 更にNYHA重症度がIIIとIV度のNo. 3, 4のTR群の2例がミオシンATPase活性値が低値であった. この2例は術後low cardiac output syndrome(LOS)から腎不全となり喪った. この原因は左心機能低下や肝腎機能低下などの存在していたことに他ならないが, ミオシンATPase活性の状態が心機能の一部を物語り, 開心術に対する対応の一助と成り得ると考える. |