Abstract : |
先天性食道嚢腫は, 発生学的見地より気管支性嚢腫との異同について見解が分かれる興味ある疾患である. 1965年1月より1989年3月までに手術した8例の食道嚢腫を対象として臨床, 病理学的検討を行った. 同時期の縦隔腫瘍手術例は320例で, 食道嚢腫は, 2.5%を占め, 嚢胞性縦隔腫瘍69例の11.6%であった. 8例の年齢は20~30歳代で最も多く, 男性, 右側, 胸腔内中下部食道に多く見られた. 術前確定診断は食道透視や胸部CTでは必ずしも容易でなかった. 一方, 超音波内視鏡は, 食道壁内発生例に対しては診断上極めて有用であると思われた. 手術時, 嚢腫核出後の筋層縫合については, 術後の狭窄, 憩室の発生と共に, 止血に十分注意が必要であり, 2例の術後出血を経験した. 嚢腫と食道の関係については, 食道壁内発生例は6例で, うち1例は粘膜下に存在した. また2例では嚢腫は胸腔内に突出し有茎性に食道と連絡していた. 嚢腫はすべて単胞性で, 直径2.5cmから鵞卵大であった. 上皮は全例, 繊毛門柱上皮で, 6例が多門繊毛円柱上皮, 2例が重層繊毛円柱上皮であった. 食道嚢腫は, 軟骨の有無と筋層の発達程度より気管支性嚢腫, 先天性食道嚢腫に分類されるが, 2例では両者の性質を併せ持っていた. このことより食道嚢腫は種々の分化程度を示すものがあり, 前腸由来の一連の嚢腫と理解された. |