Abstract : |
開心術中の人工心肺血より分離した血漿に, 赤血球形態変化誘起作用があることを見い出した. 経時的に採取した体外循環時の血漿(0.9ml)にヘマトクリット値10%の洗浄正常赤血球(0.1ml)を加えると, 灌流時間の延長に伴ってより強い外方突出型変形(echinocytosis)が誘起され, 2~3時間で最高の変形を誘起した後, その程度は減弱し始め, 灌流終了時の血漿には変形誘起作用は認められなかった. 変形誘起作用を有する血漿にヒト血清アルブミンを添加するとその効果は消失し, 一度誘起された変形赤血球をアルブミン溶液で洗浄すると容易に正常形に回復した. 変形誘起作用を有する血漿をゲルろ過すると, タンパク質の溶出分画に変形誘起活性が認められた. また, 血漿を56℃で30分加熱しても, 変形誘起活性はわずかに減弱したのみであった. 12症例の血漿総タンパク質(Prot), コレステロール(Chol)と脂肪酸含量(FFA)を測定し, Chol/ProtとFFA/Prot比を求めたところ, Chol/Prot比は術中ほぼ一定の値であったが, FFA/Prot比は術中一過性に上昇し, この上昇と変形誘起活性の現れる時間的経過, 及び上昇の程度と誘起される変形の程度がよく平行した. また, 血漿中のFFA/Prot比の上昇に伴って, 赤血球中のFFA/リン脂質比も上昇した. 脂肪酸はアルブミンと高い親和性を有するが, 赤血球膜にも親和性があることより, 血漿中の脂肪酸の一部が赤血球膜に侵入して変形を誘起したものと思われる. 形態変化に伴い赤血球変形能が低下すると言われており, 体外循環時の変形能の低下にこの種の形態変化が関与していることが示唆された. |