Abstract : |
左肺動脈が右肺動脈から起始し気管と食道の間を迂回し左肺にいたる極めてまれなPA slingの1手術治験例を報告する. 症例は生後46日目の女児で, 食道造影, 気管支造影及び心臓血管造影検査にてPA slingと診断した. 手術は胸骨正中切開, 部分体外循環, 軽度低体温下に右肺動脈より起始する異常左肺動脈を切断し気管後面より剥離, 肺動脈幹に端側吻合した. 同時に動脈管も切断した. 術後は経過良好にて24日目に退院した. 本症は左肺動脈による気管圧迫のみならず気管, 気管支の形成異常により呼吸困難を呈することが多く, そのため手術救命率は, 本邦では文献上4例の長期生存例を見るに過ぎない. 治験例は生後46日目と本邦手術報告例中最年少であり呼吸器からの離脱も比較的容易に行えた. 更に1年後に肺動脈造影, 肺血流シンチグラムを行い肺動脈の開存を認めた. 本症の診断, 治療について若干の文献的考察を加え報告する. Pulmonary artery sling(以下PA slingと略す)は, 左肺動脈が右肺動脈より起始後, 食道と気管の間を右側より左側へ通過することにより右気管支近位部を圧迫, なお且つ気管, 気管支の形成異常を高率に伴うことにより, 新生児, 乳児期に呼吸障害を来すまれな疾患である. |