Abstract : |
代用気管として空腸を利用し得るか否かを検討するために, 犬の頸部気管を管状切除した後自家遊離空腸を用いて欠損部を補填し, シリコンTチューブで内腔を保持する実験を行った. すなわち, 頸部気管を7気管軟骨輪含めて管状切除し, その欠損部に無処置の遊離空腸を移植する実験(無処置群)を12頭に行った. また, 遊離空腸から分泌される腸液を抑えるために行った基礎実験で, 空腸粘膜表層をメスで剥離した後, その剥離面を電気メスで焼灼する方法が最も腸液の分泌を抑えたので, この方法で処理した遊離空腸を移植する実験(剥離・焼灼群)を11頭に行った. 移植空腸は壊死に陥った1頭を除いて良く生着し, 1頭に吻合部の離開, 感染を認めたが, 他の実験犬では過剰肉芽による狭窄, 離開, 感染などは見られなかった. 無処置群では, 腸液が原因と思われる肺炎あるいは気道閉塞で術後早期に死亡するものが多かった. 粘膜剥離・焼灼群では術後早期の死亡が減少し長期生存するものが増えた. 組織学的観察では, 移植空腸は菲薄化した粘膜に覆われ, 吻合部は術後2週目には上皮による被覆が完成していた. 吻合部の肉芽組織は4週, 8週と次第に消退し, 代わりに膠原線維の増生が進み, 3ヵ月目には瘢痕となり, 良好な創傷治癒を示した. 切除気管を14気管軟骨輪に広げ, 粘膜表層を剥離, 焼灼した遊離空腸を移植する実験を8頭追加したが, 喀痰の貯留や肺炎の発生は増加せず同様の結果が得られた. 以上より, 自家遊離空腸は代用気管として有効に機能し, 十分に臨床応用可能と考えられた. |