Abstract : |
僧帽弁後交連部から心室中隔にかけて, 著明な石灰化巣を有する僧帽弁狭窄症兼閉鎖不全症の64歳女性に対して, 僧帽弁置換術を施行した. 石灰化巣切除に伴う心室中隔膜様部の損傷のため, 術直後より左室右房交通症を発症し, 術第1病日に右心カテーテル検査にて確診を得た後, 同日左室右房交通孔閉鎖術を施行した. 残念ながら, 患者は第20病日に遷延する, DIC, 腎不全のため死亡した. 弁置換術に伴う左室右房交通症は極めてまれな合併症であるが, 術後の血行動態不良の原因として重要である. 心室中隔膜様部近傍の石灰化巣切除の際には, 本症発症の可能性に充分留意する必要があり, いったん本症の発生をみた場合には出来得る限り早期の診断と再手術が望まれる. 左室右房交通症は極めてまれな疾患であり, 多くは先天性である1)2). 後天性のものとしては, 外傷3), 感染性心内膜炎4), 弁置換術5)~9)に起因するものが報告されている. 特に, 開心術の合併症として発生する医原性心内シャントは, 術後の血行動態不良の原因として重要である. 今回われわれは, 僧帽弁置換術後に発生した左室右房交通症の1例を経験したので, その原因, 治療の問題点について報告する. |