Abstract : |
症例は72歳の男性で, 1989年4月14日に突然嗄声を生じ, 精査により左反回神経麻痺を伴う胸部下行大動脈瘤と診断された. 手術は左第4肋間開胸で, 2.7×3.4cm嚢状の動脈管憩室動脈瘤を確認し, 部分体外循環法下に瘤切除, パッチ縫着術を行った. 瘤壁は菲薄で, 内膜に粥状硬化を認めた. 術後第2日に軽度意識障害と右不全片麻痺が発生し, CT撮影により左硬膜下血腫が発見された. 脳神経症状は増悪しなかったので, 術後第16日に開頭術を行った. 左前頭葉, 頭頂葉, 側頭葉を被う硬膜下血腫はゼリー状, 重量100gで, 血腫の除去術は容易であった. 脳神経機能は完全に回復し, 開頭術後第47日に退院した. 自験例のごとく術後脳合併症には開頭術が適応となる場合があるので, 積極的に対応すべきと考え, 報告した. まれではあるが, 胸部下行大動脈瘤の手術後に脳障害を合併することがある1)~4). 最近, 著者らは動脈管憩室動脈瘤5)~7)の手術後に硬膜下血腫を発生し, 開頭術により治癒せしめた1例を経験したが, 術後硬膜下血腫の発生は非常にまれれと思われ, 文献報告は見当らない. そこで本動脈瘤の手術と術後硬膜下血腫について若干の考察を加えながら症例を報告する. |