Abstract : |
右前胸部痛を主訴とする, 71歳女性の急性心筋梗塞症例を経験した. 本症例においては全内臓逆位, 鏡面像右胸心を呈しており, 四肢誘導の逆転, 及び右側胸部誘導による心電図では下壁梗塞の所見を示し, 梗塞後狭心症発作時には前壁領域の虚血を認めた. 冠動脈造影所見上, 右冠動脈(解剖学的左冠動脈相当)は前下行枝seg. 6相当部にて90%の狭窄を有し, 回旋枝相当の分枝を認めなかった. 左冠動脈(解剖学的右冠動脈)は非常に優位で左室鈍縁にまで達し, seg. 3相当部に75%の狭窄を有した. 本症例に対し静脈グラフトを用いて2枝CABG手術を施行し, 術後2年の現在, 良好に経過している. 欧米においても全内臓逆位での右胸心におけるCABG手術の報告は非常にまれであり, 著者等の調べ得た範囲では本邦では初症例と思われた. 全内臓逆位を伴う右胸心の頻度は1:6,000から1:36,000とされ, 平均では約1:10,000で男女比も変わらないとされている1)2). 本症においてはsitus solitusのものや無脾症を伴うものと異なり, 先天性の複雑心奇形を合併する頻度は低く, 生命予後も良好と思われる3)4). |