Abstract : |
左内胸動脈(LITA)による左冠動脈領域へのバイパス術における最短ルートについて検討した. 対象は, 左肺上葉の前方より心嚢内に入るルート(従来ルート)使用の20例(I群)及び吸気時に張り出す左肺上葉の背内側を通すルート(肺内側ルート)使用の20例(II群)である. 両群間に身長, 体重及び体表面積に差はなかった. これら両群の胸部X線写真(正面及び側面)上の止血クリップが作る弧状曲線のうち, LITA起始部より最屈曲点までの弧の接線と最屈曲点よりLAD吻合部までの弧の接線がつくる最大角度(T角)を計測した. またII群の20例全例について, バイパス施行後, 体外循環終了後の吸気時における従来ルート及び肺内側ルートの距離を計測した. 結果は, 正面及び側面像においてともにII群のT角が有意に大きく(p<0.01), 肺内側ルートがより直線に近く, LITAの距離が短縮されることを示唆した. また実際の距離の計測では, 従来ルートの15.1±1.1cm(mean±SD)に比べ, 肺内側ルートは12.6±1.4cmと有意に短かく(p<0.01), 特に左肺が過膨張する症例において有利であった. 以上の結果より, in situ LITAによるLAD領域へのバイパスにおける肺内側ルートの使用は, 従来ルートの使用に比べ, 有意なLITAの短縮を可能にし, すなわち中枢側のより太い部での吻合を可能にし, 左肺の過膨張による影響を受けにくい点より有利な方法と考えられた. |