Abstract : |
Hall-Kaster弁による大動脈弁置換術(AVR)後8年4ヵ月目に, 弁機構破綻のため, 急性左心不全を呈した症例に対し, 緊急再弁置換術を施行し, 救命し得た症例を報告する. 症例は52歳, 女性. 1980年1月, 当教室においてHall-Kaster弁(23A)によりAVR及び直視下僧帽弁交連切開術を施行し, 経過良好であった. 1988年5月, 突然の前胸部痛, 嘔吐, 呼吸困難を主訴とし, 内科的治療に抵抗する心不全が進行したため, 緊急再弁置換術を施行した. Hall-Kaster弁のdiscが一方のpivotから逸脱しているのが認められた. Hall-Kaster弁における弁機構破綻の報告は極めてまれであり, discの逸脱によるものは本症例が最初の報告例と思われる. Hall-Kaster(H-K)弁は1977年, 初めて臨床に応用され, 現在, 最も一般的に使用されているtilting disc弁の1つである. H-K弁の特徴は, 可能な限り弁抵抗を少なくし, また, 小弁口を通る血流を大きくするため, discの偏心度, 開放角などに工夫をこらし, 血栓発生の危険性を低くするよう設計されている. |