Abstract : |
僧帽弁狭窄症(MS)に対する弁置換術後の左室機能不全(LVF)の成因とその予後を検討した. また, その成因が術前からの左室機能障害にあると思われる症例では, その術前評価法も合せて検討した. 術後LVFの基準は, 重篤な左心不全のために大量カテコラミン投与かつIABPを使用したものとした. 対象90例中13例(14%)が術後LVFに陥ったが, うち6例には術中心筋梗塞など明確なLVFの原因があり(A群), 他の7例は円滑な手術にも関わらず術後LVFに陥った(B群). この両群間, 又はこれらに非LVF群を加えた3群間の比較では, 心係数(CI)を除く術前諸指標, 術式, 心筋保護法などに有意の差はなかった. しかし, A群ではIABP実施時間が有意に長く, その離脱はA群4/6例に対しB群6/7例となったが, 長期生存はA群1例に対しB群は離脱成功例の6例全例に得られた. B群の術前左室機能を主に心エコー法からの%fractional shortening(%FS)によって検討すると, B群7例中5例は術前%FSが正常値を下回り, うち2例は%FSが20%以下と著明に低下, 残り3例はCIが2L前後の低値を伴っていた. 術前dobutamine負荷からはその反応度をΔFS(=負荷後%FS-負荷前%FS)で求めたが, B群且つ負荷前%FSが低値の症例は負荷後のΔFSも低値を示した. また, 術中生検から求めた左室心筋繊維化度(%flbrosis)も, かかる症例で高値をとった. 以上より, MSにおける弁置換術後のLVFの成因は術中の合併症群(A群)と術前からの低左室機能群(B群)に大別されること, また, その予後はA群で不良であるがB群では長期生存も望み得ること, 更にB群には心筋繊維化による左室機能障害例が含まれ, その判定には術前dobutamine負荷が有用であること, が結論された. |