Abstract : |
Cold blood cardioplegia(CBCP)の持続投与による心筋保護法を用いた最近4年間の急性心筋梗塞例を除く冠動脈バイパス術(CABG)214例において, 心筋保護液の投与経路及び投与量の差異による心筋保護効果を以下の4群につき比較検討した. A群(n=59);CBCP投与量を10ml/minとした順行性冠灌流群, R群(n=52);CBCP投与量を10ml/minとした冠静脈洞からの逆行性冠灌流群, Rm群(n=59);左室心筋重量(LVMW)を加味したCBCP投与量での逆行性冠灌流群, Rmt群(n=65);Rm群にterminal warm blood cardioplegia(TWB)を併用した逆行性冠灌流群. A, Rの2群間で心筋保護液の灌流分布を比較した. 大動脈遮断直後の心筋保護液注入時の左前下行枝(LAD)狭窄末梢領域の心筋温変化とLAD狭窄度との関係では, LAD狭窄度が75%以下の例で両群の心筋温に差を認めなかったのに対し, 90%以上ではA群の心筋温低下は有意に悪化したが, R群のそれは狭窄度にかかわらず良好であった. 4群間における心筋保護効果に関する比較では, 自然心拍再開率はRmt群で他の群に比し有意に良好であり, 体外循環離脱直後のカテコラミン使用度はRm, Rmt群が有意に低値で心機能の回復はより速やかであった. いずれの群にもperioperative myocardial infarction(PMI)はなく, 心筋逸脱酵素変化及び手術成績に差を認めなかった. 以上より, 逆行性冠灌流法は冠動脈高度狭窄(90%以上)を伴う多枝病変例に対するCABGに際して灌流分布の点から有用な心筋保護法であると考えられた. また, その保護効果は左室心筋重量を加味したCBCP投与とTWBの併用によりさらに高まることが示唆された. |